エキストラでは幾つかの撮影に参加しましたが、一番印象に残っているのは八丁沖を渡るシーンの撮影ですね。
場所は新潟市西区の佐潟で行われました。ここは水鳥の生息地として湿地を保全する「ラムサール条約」に登録されている湿地です。なので渡り鳥が飛来している時季の撮影だったら撮影許可は下りなかったでしょうね。
潟の周りには植物が生い茂り、恐る恐る入って行きました。潟の底はぬかるんでいて気持ち悪かった。腰まで浸かりながら潟の中へと進んでいくんですが、ところどころ深みがあってドキドキでした。
撮影は日中に行われたんですが、実際は夜のシーンということで月明かりが照ると潟の中で身をかがめてじっとしているアクションがありました。腰をかがめて水面近くまで頭を下げたままの撮影はきつかった。
明るい昼間の撮影だったのでどのような夜のシーンになったのか気になっていましたが、映画では見事に夜になっていて素晴らしい映像になってましたね。
大変な撮影でしたが、エキストラに参加した甲斐がありました。(長岡市・50代男性)
与板の信濃川河川敷に、現代の構造物としては、違和感がある柵や建物。
戦争は、遠い昔日となり、平和を謳歌する日本には、およそ似つかわしくない、漆黒のおびただしい軍勢がうごめく。
「峠」のロケだ。
10月も末だが、気温が高い。真夏のような日差しに、軍装は、サウナスーツと化す。
「暑い!」
戦場の霧に見立てたスモークが、生ぬるい風に流れる。
地中に埋めた着弾爆薬は、1回限りと失敗は、ゆるされない。
真剣な、いや、鬼気迫る鬼の形相、各スタッフ。
私もまた、撮影現場という現代の戦場で、鬨の声を出さなければならない恥ずかしさと、高揚感、そして緊張感が入り混じった想いでいた。
しかし、間違いなくその場の雰囲気に酔いしれている自分もいた。
「撃て!」官軍中央本隊の、一斉射撃。
レプリカとはいえ銃口からは、火と発砲音。それを合図に、私の所属した右翼部隊も発砲。
部隊長の下、鬨の声を上げ、いざ突撃。信濃川から官軍による、長岡藩陣場へ向けた上陸作戦が始まる。
声を上げひたすら走る。地中の爆薬が本物さながらに爆発する。日常で出くわせば間違いなく、腰を抜かす所、不思議と気にならない。
「はい!カッ~ト!」
私の戊辰戦争は、一瞬だった。
その後、昼食を信濃川の土手で食べる。
昼休み。銃を枕にごろ寝。
周囲にも、同じく物々しい姿の人々が寝転がる。
「いいぞ。これだ。この感じ。まさに兵だ。これぞ戦だ。」
午後は、信濃川対岸よりの砲撃だ。
撮影現場は変わり、移動のバスから降りた隊は、隊列をなし粛々と現場に向け歩く。
炎天下の中、兵士役の人々に、疲労感が見られる。
足取り重く、皆無口に黙々と歩く。遠征が続く実際の部隊を、彷彿とさせる。何かリアルだ。
「もし、これが本当の戦だったら。」「ここで、眼の前の草藪から奇襲をかけられたら。」
疲れも相まって、勝手な想像に、幾ばくかの、怖さを感じる瞬間だった。
11月。浦佐毘沙門堂ロケ。
前回ロケ参加は、10月。
「10月のロケは、暑かったのに。」
新潟の季節の移ろいは早い。早朝から冷たい小雨が降り、境内は、落ち葉が積もる。すでに肌寒い。
豪雪地、浦佐に冬の足音が、近づく。
撮影は、継之助大演説後、八丁沖へいざ出陣の場面だ。
今度の私は、陣笠姿の長岡藩兵だ。和装に草鞋。
非日常の着替だった。幕末舞台の映画だが、戦国足軽のようだ。
官軍役の際は、洋装軍服。
日常の更衣と勝手は変わらず。現代の洋服が、いかに楽なことか。
今回、合戦シーンはないが、陣笠、草鞋で足軽気分。心も踊る。
だが一般市民の私には、その後の指呼の間に主役・役所広司さんを含めた豪華俳優陣が現れると、ミーハー心に支配されてしまった。
「役所広司がすぐそこにいる。」
その一挙手一投足に目が奪われる。
「芸能人を観るために来たわけじゃない。」と自分に言い聞かせる。気を取り直しロケに臨む。
我々は本堂と思われる前に、隊列をくみ並んでいる。
足袋と草鞋は、防水機能がない。
雨上がりの濡れた地面が、容赦なく、足元より体温を奪う。
足が冷たいせいか、体感温度も気温以下に感じる。
俳優陣も待機している。
役所広司さんは、出番はまだの様だ。その時、セリフが聞こえてくる。そこには、時には天を仰ぎながら、又は歩きながら、ひたすらセリフを口ずさんでいる役所さんの姿があった。既に表情は、継之助そのものに。迫真のセリフ回しは、本番そのもの。
「すごい。これぞ大俳優。」
子供の頃より暗記物の勉強は、確かに反復作業と承知している。長いセリフを暗記するだけでも、驚愕するところ、更にそのセリフに魂をこめる。
「俳優業は、職人だ。」そう思わずには、いられない場面に遭遇した。
そんな「役所継之助!」の大演説後、我々は、号令一下、一糸乱れず、しずしずと出陣した。
予定通りロケは、終了。
昼食後、軍装を解いた私は、鉄の愛馬に乗り、現実世界の待つ我が城へ戻った。
ロケから3年。世界は、一気にきな臭くなった。
継之助が是が非でも避けたかった戦。その戦が、ウクライナで、再び始まる。
草葉の陰で、継之助は今の世をどのように見て、何を想うのだろうか?
最後に、ウクライナ戦争が早期に終結し、戊辰、太平洋の両戦争から、不死鳥のごとく甦った長岡の様に復興し、泰平な世に一日も早く成らん事を、切に願うところである。(新潟市西蒲区・40代男性)
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